Professor Column
教員コラム

06.服部圭郎(経済学科): 下北沢と原発

経済学科教授 服部 圭郎

最近、研究対象として興味を持っているのは下北沢と原発です。下北沢と原発というと、全然、ピンとこないと思いますが、結構、共通点が多いのです。下北沢というと、若者に人気のあるサブカルチャーの街といったイメージがあるかと思います。いろいろと統計をいじったり、現地踏査をしたりして分かったことは、雑貨屋とビニール・レコード屋が多いこと。さらには、小劇場が多いことは比較的、知られていると思いますが、他の都内の商業地区に比べても圧倒的にライブ・ハウスが多いことです。バンプ・オブ・チキンや明学出身のメンバーのいるミッシェル・ガン・エレファント、アジアン・カンフー・ジェネレーションなど多くのロック・バンドは、まず下北沢で腕を磨いて、その後、商業的に成功する階段を踏んでいきました。これは、下北沢にそのようなインディー・ミュージックを孵化するインキュベーション機能があるからです。また、小さな個性的な外食産業が多いのも特徴ですが、確かにカフェやラーメン屋、飲み屋は多いのですが、カフェに関しては、吉祥寺ほどは集積していなかったりしますし、ラーメン屋、飲み屋は高円寺や中野にお及びません。しかし、多いのはカレー屋。なぜか、カレー屋の集積度が突出して高いのです。その理由はまだ調べていませんが、カウンター・カルチャー、すなわちアンチ・アメリカ的な価値観としてのインドといった嗜好の人が多く集まるからかもしれません。

このように下北沢の研究を細々と続けているのですが、それに興味を持ったきっかけは、下北沢の町を根底から破壊するような大規模な道路建設計画が2003年2月から動き出したからです。東京都と世田谷区が、狭くてごちゃごちゃした空間が魅力の下北沢の町に幅26メートルという環状七号線と同じ幅を持つ「都市計画道路補助54号線」の都市計画を強行しようとしたのです。この補助54号線は昭和21年という戦後直後に計画が検討された道路で、まるで死に損ないのゾンビのように平成の世に蘇った計画です。この道路は駅の北側を通ることになっており、まるでブルドーザーのように「歩いて楽しめる街」である下北沢を破壊するになります。前述した魅力溢れる空間が破壊させることで、失うものがあまりにも大きいのではないかと危惧しています。

なぜ、このような計画が遂行されようとしているのか。そこには、日本という社会が根源的に内在する、市民と行政の豊かさの価値の大きな溝、そして他者へのシンパシーを欠いた行政事業の遂行が浮き彫りになってきます。なぜ、このような状況になってしまっているのかと考察し、その成果の一部を『道路整備事業の大罪』(洋泉社)で発表していたりしていたところ、福島第一原発の事故が起きました。そして、この事故の背景となった原子力村といった官僚型組織による意志決定、弱者からの強奪、膨大なる公共事業費に群がる政治家、官僚達、といった状況を知るにつけ、下北沢と原発の問題を突き詰めると同じ根茎に繋がることが見えてきました。下北沢の道路問題には、福島第一原発の事故とも通底する我が国が抱える本質的な社会システムの問題が横たわっているのではないかと、現在、考えています。そういうことで、ゼミ生とは下北沢と原発、特に原発から40キロメートルと離れていないのですが、奇跡的に放射能があまり堆積しなかったいわき市をフィールドとして調査をしています。下北沢といわき市にフィールドの拠点を置き、そこを視座として、日本国家と道路、日本国家と原発といった関係性を展望できればと考えています。

(経済学科教授:服部圭郎)