Professor Column
教員コラム

30.西尾敦(経済学科): 祖母のこと

経済学科教授 西尾 敦

毎年8月になると昔の話が話題になる。

今年はふと父から聞いた祖母の話を思い出した。祖母は明治21年生まれで5男2女を設け、私の父は兄弟姉妹の末弟であった。父の兄はすべて応召して戦地に赴き、3番目の伯父は中国で戦死した。

真相を聞いたのは父が亡くなる2,3年前だった。入隊後しばらくして、前年に祖父を亡くし寡婦になっていた祖母が部隊を訪れしばらく隊長と話し込んで帰った。おそらく息子がすべて戦地に行って生死もおぼつかない。最後のこどもを亡くしたくないというようなことを隊長に訴えたのだろう。それから程なくして、父は輜重係(ロジスチックスつまり後方支援)に回された。当時の父にはこれは屈辱だったらしいが、祖母のおかげで死なずにすんだかもしれないと、数十年を経てポツリと漏らした。

こういう話も聞いた。長兄も軍医として中国を転々としていたが、たまたま戦死した伯父に出会った。そのとき適当な病名をつけて後方に移動させればよかったと、後々まで悔やんでいた。現代にも通ずるコネ・情実がここかしこでまかり通っていたことが推測されるが、父の兄弟はすべて他界しもうこんな話を聞くすべがない。

父の故郷は都会から離れた片田舎で戦禍は及んでいないが、近くの神社に出征者の名を多数刻んだ比較的新しい碑が立っている。祖母は、伯父の遺族年金を受け取り手厚く遇されていたようだが、靖国神社には行かなかった。伯父は祖父母の墓の隣に眠っている。