Professor Column
教員コラム

22.大村真樹子(経済学科): 学生の皆さんへ ~ 勉学のすすめ

経済学科准教授 大村 真樹子

日本の大学講義で頻繁に目にする光景。「寝る」「スマートフォンをいじっている」「友人とお喋りしている」「バイトの予定を立てている」等々。こちらはなるべく分かりやすい、興味が持てるような講義をすることを心がけているが、残念ながら全員にそう受け止められるわけではない。やる気のある学生は確かにいる。ただ、やる気のなさそうな学生がいることも事実である。こうした状況を見るたびに、何ともったいない事か、と思わずにはいられない。

私は開発経済学を専門としている。何が人々が貧困から抜け出せない原因となっているのか、どのような政策が有効に機能し得るのか、といった大きなテーマのもと、実際に途上国に赴き様々なトピックに関するデータを集め、研究分析をしている。今行っている主な研究は、バングラデシュ農村部の貧しい児童達の健康にかかわる研究である。小学校レベルでの保健衛生教育が、児童の行動様式の変化や健康改善に影響を与えるのかどうかを検証するものだ。

小学校を訪れると、多くの児童は痩せてはいても明るく元気で、嬉しそうに自分たちの夢を教えてくれる。「私は医者になりたいの!」「私は学校の先生!」「僕はエンジニア!」全員が夢を叶えられればと願わずにはいられないが、実際には多くの児童は多かれ少なかれ経済的理由から、その夢を断念せざるを得ない現実が未だ存在している。この中で高等教育を受けられる子供達の割合はいったいどの程度なのであろうか。中には本当に顔色が悪く、明らかに具合の良くなさそうな児童もいる。栄養が足りていない場合、勉強に集中することはできない。そうした児童は、各学年に設定されている年度末の試験をパスすることは困難であろう。小学校でも留年や退学は珍しくはない。1年生のクラスは教室一杯に児童がいて、複数クラスある場合もあるが、学年が上がるごとに学生数は減り、最高学年の5年生は大抵1クラスのみで、児童数は平均で1年生の3割ほど少なくなっている(ジェナイダ郡調査対象180校データによる)。満足に教科書やノートを持っていない子供も多く、また、電気が通っていない学校も多く、勉強をする上での環境的な厳しさも大きい。

日本の大学生を見ていると、何と恵まれているのだろうとつくづく思う。満腹で眠気を催すことはあっても、栄養が足りず集中出来ない学生はまずいない。教室は空調がきいており、まともな椅子と机があり、快適な空間だ。そこで教育を受けるために大金を払ってきているというのに、勉強をしないということは社会的損失であるし、ある意味罪深いことではなかろうか。頭も使わなければ錆びついていく。反対に、一生懸命勉強をすることによってのみ得られるものもある。日本の就職システムや大学教育に不備があるのも事実であろうが、学生の皆さんには是非、大学へ行くということが「届かない、でも絶対に叶えたい夢」である途上国の多くの児童達の気持ちに思いを馳せて、大学に通い講義に参加して頂けたらと願っている。