Field Study of
Economics Department

経済学科のフィールドスタディ

2013年度 <中国FS> 学生報告1

今回私は、ニュースや新聞、雑誌などの様な受動的な情報ではなく、様々なことを自らの目で耳で鼻でそして感覚で感じたいと思いフィールドスタディーに参加させていただきましたが、漠然とした思いであったことは否めません。しかしいざ中国に到着し、様々な現状に向き合ってみるとその衝撃は想像以上に強烈で、刺激的でした。気付いたら日々が過ぎてゆく日本での生活と違い、自らのちっぽけな世界観が壊れていくかの様な気分に襲われたほどです。

もともと両親が中国人だということもあり、幼い頃からそれなりに中国の文化には触れてきたつもりだし、両親の故郷や友人のところにもよく遊びに行っていました。しかしそれらの経験は所詮ただの観光や里帰りなどといった日常生活の延長線上でしかなく、真剣に中国の現実に向き合うために参加した二週間弱しかないフィールドスタディーのほうが、中国の今を感じるという意味においてはよっぽど有意義だったのです。

今回フィールドスタディーに参加する上で個人的に設定したテーマは、「日中関係の国民レベルでの現在及び未来への意識」と「中国経済の現状と発展性」、そして「急激な経済発展による様々な負の遺産の現状」です。まず一つ目のテーマについてですが、これについては正直よくわからなかったです。触れ合った人が少なすぎたというのもあるし、そのような話題をなかなか切り出せなかったというのもあります。ただあまり根拠は無く、感覚的な話になってしまうのですが、あくまでも民間同士ではという大前提においては両国の未来を悲観的に捉える必要はないと感じました。なぜなら、現地に滞在中ほとんど日本人に対するネガティブな言動を見聞きしなかったし、むしろ親切に接してくれていたからです。中でも内モンゴルの方々は親切だなと感じましたが、2泊目の場所の責任者の方は特に印象的でした。

また、私は自分を含め家族全員が中国人なのですが、生まれてから今に至るまでのほとんどを日本で生きてきました。そういう環境で育ってきたので当然中国人の友人もいるし日本人の友人もいます。国民性や文化の違いがあるのでさすがにまったく同じように接するということは出来ませんが、中国人とも日本人とも仲良く出来ています。なので、個人対個人ではまったく問題無いのに、なんで国対国になるとこうもいがみ合ってしまうのかと日々歯がゆく感じていました。当然そこには歴史問題や様々な利権争い、国民の共産党への不満をそらすためのパフォーマンスなど、様々な理由が絡み合っているということは理解しているつもりではいますが、ただただもったいないなと思うのです。北京大学交流センターの前センター長が仰っていた通り、経済発展や地域の安定化、ひいては国際社会における立場や地位など、日中両国が良好な関係を築ければ国益という観点からも明るい未来が広がっているからです。習近平政権と安倍政権には少しでも日中関係の改善に繋がるような外交努力をして頂きたいものです。

次に二つ目のテーマですが、これについてはやはり百聞は一見に如かずだと痛感しました。日本での中国経済についての論調はたいていもうもたないだとか、失速する、バブルが弾ける、限界だ、といったものですが、個人的にはまだいけるのではないかと思います。沿岸部はまだしも、内陸部のGDPの成長率(信憑性は??)は眼を見張るものがあり、国が重点的に国庫を投入しているからです。今回訪れた内モンゴルも、実際に行くまで抱いていたイメージよりもかなり発展していたし(街中の高級車の数には驚きました)、農業の生産性を上げれば労働力もまだまだ確保できるわけで、産業構造の転換に共産党が失敗しなければ、8%はもうさすがに不可能だとしてもまだまだ成長の余地は果てしなく広がっているでしょう。

ただ一方で急激な経済成長に伴う軋み(環境問題・戸籍問題・出稼ぎに伴う様々な問題・経済格差・不平等な社会に対する民衆の不満問題・権力者や官僚による汚職問題・政治体制や社会体制への不信感による様々な意味においての国富流出問題)などがあらゆる方面で顕在化してきているというのも事実なので、この先も成長を維持していけるかどうかは、いかに共産党がこれらの問題を解決していけるかに懸かっているのだと思います。

最後に三つ目のテーマですが、これに関しても一つ目のテーマ同様2週間弱という短い時間でははっきりとしたものは見えてこなかったのですが(日本にいても知ることの出来る程度の側面しか見えなかった、という意味で)、先程も述べたように急激な経済成長に伴う歪みというものは確実にあるわけで、今回もNHK上海支局を訪れた際に見せて頂いた出稼ぎに行った親と1年の大半を離れ離れに暮らしている子供たちの問題など、様々な要因(例えば上のケースでは少なくとも内陸部と沿海部の経済格差・戸籍問題・都市部の人口問題など)が複合的に絡み合って発生しているケースが多く、解決が容易ではないという重い現実があります。今はまだ抑えられていますが、ひとたび民衆の怒りが爆発したら共産党そのものの存続に関わるほどのエネルギーであることは容易に察しがつくので、後手に回ってしまわないうちに、痛みは伴うかもしれないけれど迅速でかつ効果的な改革を断行するしかないでしょう。

以上で今回のフィールドスタディーに参加するにあたって設定したテーマの考察は終わりなのですが、もう一つ感動したのは、今回共に参加したメンバーの団結心と柔軟な感受性、そして人間性の素晴らしさです。とてもハードな2週間弱の日程でしたが、誰も弱音を吐くことなく、辛そうな人がいたらみんなで支えあい、慣れない環境や食事、そして疲れによる苛立ちを人にぶつけることもなく、とても自立した関係性を築けていました。思わず皆がそのような心持でいられれば日中間のくだらない争い(語弊がありますが、個人的には本当にくだらないと思います)も無くなるのではないかと思ってしまいました。

また、その苛酷な2週間弱の日程を大人の貫録と懐の深さでリードしてくださった宋教授の笑顔にも随分と助けられました。本当にありがとうございました。これからの人生を生きる上で糧となる経験をたくさんし、宋教授と奥様からありがたいお言葉をいただき、ひろみち君とも楽しい会話ができ、最高の仲間に出会えた、最高のフィールドスタディーでした。