「フィールド・スタディを通して」
私は、今回のフィールドスタディーで北京、湖南省、上海に行ったことを通して、多くの新しい知識を得た。特に物価、環境、文化、産業に関しては、今までの先入観を捨て、新しい視点で中国を見る良い機会となった。今まで中国に行ったことがなかった私としては、日本国内のニュースや書籍からしか情報を得る方法がなかった。そのため、多少偏見も持っていたように思う。また、もともと知っていたことであっても、実際に現地に行ったことによって、より深く理解することができたように思う。以下、考察していきたい。
1つ目に、中国国内の物価の差と、実質GDPについて考察していきたい。もともとの知識として、中国国内では都市部と農村部の間に、大きな1人あたりのGDPの格差があるということは知っていた。しかし現実には商品の物価にも大きな差があるので、一概に生活水準に差があるとは言い切れない。中国統計年鑑2012年版によると、上海の都市部においての一人当たりのGDPは37557.5元であった。また、湖南省の農村部における一人当たりのGDPは5606.8元である。つまり、上海の都市部と湖南省の農村部の一人当たりのGDPの差は、約6.7倍である。このGDPの差だけを見ると、生活水準に大きな隔たりがあるように見える。しかし、中国国内のこの二つの地域の間には、大きな物価の差が存在する。例として、ビールの値段が挙げられる。今回私は地元の飲食店に行き、調査を行った。調査によると、湖南省では1本10元で瓶詰の青島ビールを飲むことが出来た。それに対し、上海の飲食店では、1本60元で販売していた。このビールの値段の差を一般的な物価の差であると仮定すると、上海の物価は湖南省の物価の6倍であるということが出来る。GDPの差と見比べてみると、あまり実際の生活に差はないことが分かる。もともと中国に対して極端な貧富の差があるというイメージを持っていたが、実際は思っていたよりも差がないことが分かった。
2つ目に、環境について考える。実際に行く前の中国の環境のイメージは、とても悪かった。PM2.5の問題も聞いていたし、空気がとても臭いという話も聞いていた。そのため、中国に行く前にはマスクを用意して行った。しかし、実際に中国に降り立ってみると、思ったよりも空気が悪いと感じなかった。交通量が多いところに行くと多少いやな臭いはしたが、そうでない場所ならあまり気にせず生活できるように感じた。予想よりも空気がきれいだった理由は2点考えられる。1点目としては、「抗日戦争勝利70年記念式典」のために、交通規制が行われていたからだと思う。しかしもっと重要な理由として、2点目に、地域ごとの二酸化炭素排出量の削減運動が挙げられる。もともと中国に対しては二酸化炭素の排出量を削減する意志のない国というイメージがあったが、そのイメージは誤りであることが分かった。フィールドスタディー中に上海の環境交易取引所に行ったが、そこでは二酸化炭素排出量の権利が取引されていた。二酸化炭素排出量の権利の市場を作ることにより、より積極的に企業に二酸化炭素排出量の削減をさせることが狙いらしい。排出量環境交易取引所で受けた説明によると、いま中国では上海以外の各地域でも二酸化炭素やその他の有害物質の排出量を削減するための運動をしているそうである。想像していたよりも空気が悪く感じなかったのは、このような運動の成果が出始めているからではないかと思う。
3つ目に、食文化について考えたい。中華料理と呼ばれるものは、日本でも広く受け入れられているが、あまりに種類が多く、どこの地域の料理であるかわからないものが多かった。そこでフィールドスタディー中に各地の食事の違いを意識していたら、面白い発見があった。第一に、同じ中国国内でも北の方と南の方では主食が違い、北の方では中国風の蒸しパンが主食であり、南の方では米が主食であるようだ。また中国の大学生との交流の際に聞いたことではあるが、味の文化も大きく異なっているようで、おかゆの中に北では塩、南では砂糖を入れることが一般的なようだ。中国国内ではその好みの違いに配慮されているようで、ホテルのバイキングではおかゆの前に、砂糖と塩の両方が置かれていた。第二に、中国の内陸部の方が辛い物を好む傾向にあることが分かった。今回行った中では湖南省が最も内陸であったが、北京、上海と比べて辛い料理が多かった。中でも最も印象的であったのは、毛沢東も好んだとされるチンジャオロースだった。日本では牛肉とピーマンの炒め物だが、このとき食べたのは牛肉とトウガラシの炒め物であった。中国国内でもここまでトウガラシの効いた料理は他になかったので、内陸部の好みを表す良い例だと思った。以上のように同じ中国人でも、住んでいる土地によって食文化や好みが大きく異なっていることが分かった。このような文化の違いを知ることは、今後中国の人とうまく付き合っていくうえで大きなメリットになるように思う。
また、中国国内ではまだあまり他国の食文化が広まっていないように感じた。原因としては、中国の食文化の調査不足により、中国人の理解を得ることが出来ていないからではないかと思う。食文化の調査がうまくいった場合はシェアが得られるはずである。実際、ケンタッキー・フライド・チキンのように中国でも受け入れられている外国のチェーン店は、日本での味とやや異なっており、おそらく中国人向けの味になっていた。中国の食文化を理解することは、中国に他国の料理を輸出していくうえでも大事であることが分かった。
4つ目として、毛沢東について考えてみたい。私はもともと毛沢東に対して20世紀中盤以降の中国を牽引した強いリーダーというイメージも持っていたが、どちらかというと自己の権力に固執した独裁者というマイナスのイメージの方が強かった。実際日本では、毛沢東についてマイナスのイメージで書かれている本が多い。そのため、現代の資本主義の傾向が強くなってきている中国国内にはあまり影響を及ぼしていないのではないかと思っていたが、誤りであった。フィールドスタディーの引率の先生によると、毛沢東の根本的な考えは、人民に奉仕することだ。この考えは、恐らく多くの人に影響を与えているのではないだろうか。実際湖南省の毛沢東の生家に行ったとき、私たちのように中国の国民でない人を除けば、ほとんどの人が真剣に見学していた。このことから私は、毛沢東は一種の信仰の対象ではないかと感じた。私は信仰を人々の精神のバックボーンとして必要なものと捉えているが、毛沢東はまさに中国国民の精神のバックボーンなのではないかと思う。たとえかつての毛沢東の政策を批判する人であっても、根本には毛沢東への尊敬の念があるようである。以上のことから毛沢東は、国民のために政策を実行した一人の偉大な指導者であることが分かった。中国国民を理解するためにも、今後は毛沢東に対する理解を深めるよう勉強することが必要であると思った。
5つ目として、産業について考える。中国に行く前は、中国では製造業を中心に栄えている発展途上国であり、工場が乱立しているというイメージがあった。またその工場の設備も、一昔前の日本の町工場のような少々汚いイメージがあった。しかし実際に中国の、特に上海を見た時に、イメージが変わった。高層ビルディングが多く並んでおり、想像していなかったほどに発展した大都市であった。また、上海大衆という自動車メーカーの工場に見学しに行ったが、かなりきれいな工場であり、設備も最新のものであると伺った。いまだに工場が乱立している土地もあるとは思うが、少なくとも都市部は先進国にも劣らない設備の整った町であることが分かった。
最後に、トイレについて考えてみたい。日本のトイレが奇麗であるせいか、中国のトイレはホテルのトイレでさえ汚く見えてしまった。恐らく日本人と中国人の間ではトイレの清潔さに対する需要が異なっているのでこの違いが生まれるのだと思う。ただ、中国国内でも徐々にトイレに対する需要が変化してきているようである。今回交流した上海外国語大学の学生によると、最近ではトイレの便座の需要がかなり高まってきており、日本での爆買いの対象として化粧品よりもむしろ便座が流行っているそうだ。つまり、今後中国のトイレの市場は、大きな成長が期待できるかもしれない。現段階でもTOTOという日本のメーカーはかなりのシェアを獲得しており、私が確認したホテルや飲食店のトイレのうち半分以上がTOTO製のトイレであった。日本としては今後の中国でのトイレ用品の需要増に対応出来るよう、市場調査をしていく必要があると思った。
以上のように、私は今回のフィールドスタディーを通して多くのことが学べた。今後日本と中国とは今以上に関係が深くなっていくと思うので、今回学んだ経験をうまく活用していきたいと思う。