Professors' Column
教員コラム

08.神門善久(経済学科): 72年ぶりに復活!コメの先物市場

経済学科教授 神門 善久

 今年(2012年)は関西商品取引所の開設60周年にあたります。関西商品取引所の起源は江戸時代の堂島の米会所です。この堂島の米会所では、世界に先駆けてコメの先物取引が行われたといわれています。明治維新以降も、大阪は商業の中心地として、活発にコメの先物取引が行われてきました。しかし、残念なことに、軍国主義的な統制経済化にともない、1929年にコメの先物取引は停止されました。戦後も、コメ流通の国家管理が長く続いたため、コメの価格形成もゆがみ、先物取引も沙汰やみ状態でした。
 近年のコメ流通の自由化により、ようやくコメの価格形成も健全化してきました。それに伴い、コメの先物取引の復活を求める声が徐々に高まりました。そういう機運の中、ついに、政府もコメ先物の試験上場を認可しました。かくして、昨年8月8日、72年ぶりに関西商品取引所でコメの先物取引が再開されました。
 地球全体でコメの生産・消費が伸びているにもかかわらず、意外なことに、コメの先物取引は世界的にも珍しいです。本格的なコメの先物取引をしているのは、関西商品取引所が世界で唯一といえます(2013年2月8日までは東京穀物商品取引所でも行われますが、その業務も関西商品取引所に移管することが決定されています)。
 私はコメの先物取引の再開と同時に、関西商品取引所の運営委員(米穀部会)を拝命しました。コメの先物取引を円滑におこなうために、いろいろな取り決めを定める仕事です。委員の皆さんは、大手の米穀商や取引所の職員など、流通のプロばかりです。私だけがド素人の象牙の塔の住人で、世界でたった一人のコメ先物取引の運営の仕事をしている大学教授ということになります。
 ド素人の私がなぜ、コメの先物取引に関わるようになったのかをお話しましょう。私の研究分野は農業や経済発展です。その関係で、全国各地の農業視察をします。昨年の7月、農業視察の途上、関西商品取引所を訪ねました。前々から商社マンの友人から見学を勧められていました。穀物取引の現場を勉強するためにという口実ですが、実のところは、ほとんど好奇心での訪問でした。
 関西商品取引所は、大阪市の阿波座にあります。私は18歳から29歳の12年を京都で過ごしており、阿波座の水産卸売市場にも何度か行ったことがあります。久しぶりの阿波座探訪の昨年7月の日は、とても暑くて、しかもその後に農家訪問を予定していましたから、ラフな服装に野球帽といういでたちでした。対応してくださった関西商品取引所の部長さんはこれぞ大阪人という感じの明るくて気さくな方で、正真正銘の関西弁で取引所の歴史をおもしろく話してくださいました。
 部長さんは、関西商品取引所の5階に連れて行ってくださいました。そこは大会議室や小会議室として使われているのですが、もともとは小麦やとうもろこしなどの先物取引の立会いがおこなわれていたそうです。立会いというのは、売り手や買い手が「手振り」でセリ人に注文を伝え、セリ人が値の上げ下げをして売りと買いを付き合わせるという方式です(厳密には、立会いには、「ざら場」と「板寄せ」があって、関西商品取引所は後者を採用しています)。いまはほとんどの取引がコンピューターでおこなわれるのですが、この5階には、立会いのときにセリ人が使っていた拍子木や、価格掲示板がそのまま残っていて、かつての売り手や買い手の熱気が染み付いているように感じました。
 商都大阪の一片をみることができて、私は大満足でした。部長さんの案内に謝意を申し上げ、関西商品取引所を後にしました。そのときは、これから先、阿波座に来る機会はそんなにないだろうなと思っていました。
 ところが、その一週間後、関西商品取引所から、コメの先物取引のための運営委員就任の打診がありました。私は無名の研究者で、それまで、行政からも民間団体からも、委員の類の仕事を依頼されることはありませんでした。びっくりしながらも、喜んで引き受けました。
 それ以降、数カ月に一回、関西商品取引所に出向いて会議に出席します。会議というと、総じて退屈だったり、眠くなったりするものですが、この運営委員会は面白くて面白くて仕方ありません。実際に先物取引を始めてみると、いろいろな難題が発生します(あまりその詳細はお話しできないのですが)。その都度、解決策を議論するのですが、何せ、世界で唯一のコメの先物取引で、72年のブランクがありますから、委員の皆が手探りです。濃厚な関西弁で、リアルな問題をめぐって意見を交えるのを聞いているだけで、勉強になり、興奮します。私はといえば、しばしば、ド素人まる出しの質問をして、議場の皆さんをポカンとさせてしまうのですが、案外、それが潤滑油になって結論がまとまることもあります。
 先物市場には、とうもろこしとか小麦とか綿花とか、いろいろな商品がありますが、コメにはコメの難しさがあります。こうして手探りをしながらコメの先物取引の運営ノウハウを蓄積することはとても大切なことです。関西商品取引所は、いまは国産コシヒカリのみを取り扱っていますが、運営ノウハウさえつめば、世界各地のさまざまな種類のコメを取り扱えるようになるでしょう。ちょうど、世界の小麦やとうもろこしの先物取引がシカゴに集中するように、世界のコメの先物取引が大阪に集中することになるかもしれません。いまや中国など新興国に押されてすっかり国際的な存在感を薄めている日本ですが、コメの取引で、世界の情報が集まる熱狂の場になるかもしれないのです。そうなれば、日本農業はもちろん、日本経済全体の活性化にもつながります。もちろん、雇用や国際交流の増大にもなります。私は、機会があるたびに、コメの先物市場を伸ばすことの有用性を訴えています。
 ずっと後になってわかったのですが、私が委員になれた理由は、昨年、関西取引所の案内をしてくださった部長さんのおかげです。部長さんは、あまりにもラフな恰好で訪問してきた私を見て、大学教員らしからぬけったいな人だと思ったそうです。興味を持って少し調べてみたら、恰好はへんてこりんでも、農業政策の研究もまあまあしているらしいということで、こういう変わり者を委員に入れておこうと考えたそうです。これこそが関西人のノリなのかもしれません。  関西商品取引所は、理事長の岡本安明さんはじめ、活気あふれる人たちがたくさんいます。言動が単刀直入ですが、優しい配慮があちらこちらにあって、関西商品取引所に行くと、私はいつも励まされる気持ちになります。そういう人たちと一緒に、コメの先物取引を育てて、大阪を活性化させることができれば、こんな嬉しいことはありません。