Professor Column
教員コラム

12.増山幸一(経済学科): 社会的ネットワークの経済学とは何か?!

経済学科教授 増山 幸一

私たちは、人と人の間に形成された社会的なネットワークの中で日々の生活を送っている。多数の 人々はTwitter、Facebook、Myspace、mixi、google+ などに代表される新しい通信メディアを介し て比較的に少人数グループとの間で情報通信を行っている。しかし、政治的なブログに見られるよう に、新しいSNS の発達は各個人がより多様な意見を持つようになることを必ずしも保証しない。多分、 SNS の進展は、他者の行動や意見を過剰に模倣する烏合の衆、群衆化を急速に作り出す可能性を持つ。 SNS の発達は人々が入手する情報の特質を変化させ、情報の処理方法をも変化させている。より多くの 人々がSNS を活用し始めるとき、人々の選好や満足感、消費の動機付け、商品のバラエティーや販売・ 流通戦略がどのように変化するのでしょうか?また、こうした人々の経済的行動の動機付けの変化は経 済学の分析視点やアプローチにどのような影響をもたらすのでしょうか?

従来、経済学は人々の経済的取引を分析するにあたって、極端な想定をしてきた。一つは、無匿名の 多数の主体間における自由競争市場における取引であり、他方で、目に見える経済主体間における契約 による相対取引である。こうした想定では、ネットワーク上に連結された関係者の影響を外部効果とい う形で抽象的にとらえることはできても、ネットワーク構造が形成される社会的経済的動機のメカニズ ムや、その形成された構造を介して波及する主体間の意思決定の相互依存関係にいかなる影響を及ぼす かを明示的に分析できない。従来型の経済学のアプローチに取って換えて、分析の中に社会的なネット ワーク構造そのもの取り込む必要がある。私が現在研究中の領域は、こうした課題に答えようとするも のであり、社会的ネットワークの経済学と呼ばれるものである。

周知の通り、私たちが直面するネットワークは、大きく分けて4種類のネットワークに分類すること ができる。

人々の生活に見られる社会的経済的なネットワーク(social and economic networks): 同級生 同士の人間関係、友人関係、会社関係、あるいは趣味の仲間同士で形成される人々のネットワー クがこれである。最近では、Facebook などのSNS を介したネットワークが形成されている。

情報ネットワーク(information networks): 学術論文などの引用ネットワークや各web ペー ジでリンクされているWWW のネットワークなどに代表される、情報を対象物として連結され たネットワークである。

財やサービスの流通を行うために計画された技術的ネットワーク(technological networks):  代表的なものとして、各ドメイン間をつなぐインターネット回線、電力配電網、運輸交通網のよ うなインフラ的なネットワークがある。

生物学的ネットワーク(biological networks): 生態系の多くは、植物連鎖のように、動物種や 生物種のネットワークを形成している。

以下に示したネットワークは社会的ネットワークの実例であり、15 世紀フィレンツェにおける Medici 家と主要家系の門閥ネットワークを表現している。Padgett and Ansell(1993) は、この グラフの特徴から、Casimo de Medici がフィレンツェにおける権力をいかにして獲得して行っ たかを分析している。

社会的経済的ネットワークはそれを構成するノード(結節点)が人間あるいは人的組織であり、人間 あるいは人的組織の意思決定がネットワーク上で相互関係している点に特徴がある。よって、社会経済 ネットワークの重要な特徴は、ネットワーク内のリンク接続の構造に依存するだけでなく、ネットワー ク構造上で起きる行為の相互干渉の性格にも大きく依存する。ネットワーク内の各主体あるいは組織の 意思決定はネットワーク上で相互依存するので、社会経済ネットワークの分析ではゲーム理論の枠組み が必要となる。ネットワーク内の各主体あるいは組織の意思決定が他の主体に影響を持たらすことを ネットワーク効果という。このネットワーク効果とはどのようなメカニズムで働き、どのように作用す るかを分析することが重要になってくる。

社会的ネットワークを理解するために、1990年代頃から新しいネットワークのモデルが登場し てきた。代表的なものはWatts and Strogatz(1998) によるスモールワールド・モデル、Barabasi and Albert(1999) によるスケールフリー・モデルである。前者に関する解説書は、ダンカン・ワッツ著『ス モールワールド・ネットワーク:世界を知るための新科学的思考法』(阪急コミュ二ケーションズ)、後者 については、アルバート=ラズロ・バラバシ著『新ネットワーク思考:世界の仕組みを読み解く』(NHK 出版)である。これらは数式がまったく使用されていないので、誰にでも容易に理解できる。社会的 ネットワークの経済学に興味がある人は最初にこれらの解説書を読んでみてください。残念ながら、社 会的ネットワークの経済学に関する専門書(英文です、数式で埋め尽くされています)は存在します が、学部レベルのテキストや解説書はまだ日本語では利用できません。