Professors' Column
教員コラム

13.北浦貴士(経営学科): 「有価証券報告書」を用いた企業分析のすすめ

経営学科専任講師 北浦 貴士

 上場企業は、毎年の経営成績(儲かっているのか、損しているのか)や財政状況(どれだけの財産を持っているのか)を会社に投資をしている人たちに公開しています。日本では、この報告資料を「有価証券報告書」(以下、有報)と呼びます。有報は法令や規則によって何を記載すべきかが決まっているため、どの会社でも基本的に同じ内容を報告しています。そのため、有報に何が書いているのかを理解しておけば、すべての企業に応用できます。なお、有報は各社HPのIR資料及びedinetというサイトから簡単にダウンロード可能です。私の専門は経営史で、企業の歴史を分析しています。その際、過去の有報を用いてその時代の企業経営や経営者の意思決定の結果を検討しています。しかし、それ以外にも就職活動を行う大学生は、有報を「企業分析」の手段ツールとして用いることができます。以下では、企業分析について考えてみましょう。
 企業分析とは、その企業がどのような企業なのか、どのような課題に直面しているか、どのような人材をほしがっているのかを把握することです。その利点は、企業分析に沿った自己PRを考えることができること、本当に行きたい企業であるのかを見つめ直すことができることです。有報は通常100ページ以上に渡る資料ですが、企業分析に有効なのは、第一部【企業情報】の第1【企業の概況】と第2【事業の状況】です。その中でも特に注目すべきなのは、第1【企業の概況】の3【事業の内容】、5【従業員の状況】及び第2【事業の状況】の1【業績等の概要】でしょう。
 「事業の内容」では、その企業がどのような事業を行っているのか、どの事業に力を入れているのかを詳細に記述しています。「従業員の状況」では、まず正社員数及び臨時従業員数(パートタイマー及び派遣社員)が事業別で記載されています。また従業員の平均年齢・平均勤続年数及び平均年間給与が記載されています。ここで、①従業員全員が22歳に働き始め、60歳で退職する、②全ての年齢層が同じ人数だけ在籍している会社を想定してみましょう。このような会社の平均年齢は(22歳+60歳)÷2=41歳となります。そうすると、有報に記載されている平均年齢が41歳を上回る場合には、年配の従業員が多い会社、41歳を下回る場合には、若い従業員が多い会社となるでしょう。次に、平均勤続年数については、先ほどの会社の例では、平均年齢41歳の勤続年数は、41歳-22歳(入社年齢)=19年となります。そのため、平均勤続年数19年以上の会社は勤続年数の長い社員の多い会社、平均勤続年数19年未満の会社は勤続年数の短い従業員の多い会社となるでしょう。もしかしたら勤続年数が極端に短い会社では、短期間に退社してしまう従業員が多い可能性があります。せっかく会社に入社したら、仕事がつらくて退職するということは避けたいですよね。この勤続年数はそのような観点から会社を分析する場合の1つの取り掛かりとなるでしょう。ただし、注意を要するのは、平均年齢を合わせて考慮しなければならない点です。当然のことですが、平均年齢が低い(高い)ほど、勤続年数は短い(長い)傾向にあるためです。さらに、従業員の給与についても、平均年齢や日本全体の平均給与と比較するのが有用でしょう。「業績の概要」では、企業が業績内容を事業別に説明しています。
 このように、有報には就職活動においても役立つ情報が数多く記載されています。普段、私たちの目に留まることがほとんどない有報をこの機会に見てみるのはいかがでしょうか。