Professors' Column
教員コラム

17.仁科一彦(国際経営学科): 経済理論と予測

国際経営学科教授 仁科 一彦

経済理論は経済モデルとも呼ばれ、社会における経済行動を描写したうえで、将来の経済に関する予測や判断に貢献することを目的とする。モデルの作成は、その全体を通して前提となる諸仮定をおいたうえで、各経済主体の合理的な行動を論拠にしてすすめられる。出来上がったモデルは、経済を構成する生産や消費の行動を理解する助けになり、さまざまな市場における価格形成プロセスの把握を可能にする。具体的には、モデルに依拠して金融や財政の政策を施すと、生産や消費にいかなる影響が表れるかをおおよそ知ることができる。あるいは、特定の市場において何らかのショックやサプライズが発生した場合に、取引価格や取引量にいかなる影響をおよぼすかについて見当がつくようになる。つまり経済モデルは将来の経済活動に関する予測を可能にするのである。
ここで重要なのは、モデル(理論)は、おかれた仮定と理論構造部分の合成物であるということである。もし仮定が実際の近似として許容できる内容であり、理論構造にも誤りがなければ、モデルは相当程度信頼できる予測を提供するはずである。
ところが、仮定に関する客観的な判断や評価は不可能であり、理論構造が時間とともに安定している保証はない。つまりいかに確立した経済モデルであろうと、もたらす結果(予測)は確定的ではない。対象となる変数についてせいぜい変動の方向を示唆する程度であり、変化の大きさや将来の水準を予測することはできない。
「経済学者は理論(モデル)にもとづいて経済をみる」は、いつの時代でも変わらないと思われる。新聞記者から「為替がだいぶ円安に動いていますが、どのへんまで行きますか」、「株が上がり始めましたがいくらで落ち着くでしょう」と尋ねられたら、「わかりません」と答えるのが正解である。メディアはそれでは納得しないが、誠実であればその他の答えはない。「円ドルは100円程度がよい」とか「株は13000円まで行く」のような返答は経済理論から導かれたものではないことは明らかであろう。江戸時代から「相場のことは相場に聞け」という格言もある。