Professor Column
教員コラム

34.髙島均(経済学科): 時代の流れと自己認識の客観性

経済学科教授 髙島 均

今年は、台風が沢山発生したという話である。ところで、この秋、ニュースの天気情報を聞いていて、オヤッと思ったことがあった。それは、何号の台風のときだったか忘れてしまったが、気象予報士が、「台風○○号が発生しました。中心気圧は△△で、中心付近の最大風速は、22メートルです。この台風は、暴風域を伴っておりませんが、中心から半径□□キロメートルの範囲では、風速15メートル以上の強風が吹いています。』と言ったのである。エッ!??台風と言うのは、中心付近の最大風速が25メートル以上の熱帯低気圧を言うのであり、また、暴風と言う言葉は、風速25メートル以上の替えを言うのであり、「暴風域を伴っていない台風」と言うのは、言語矛盾である。

私は、子供の頃、気象に凝っていて、すでに小学校高学年のときから、気象通報を聞いて自分で天気図を描き、さらに、24時間後の予報天気図も作っていた。母親に連れられて何度か見学に行った中央気象台(現気象庁)では、予報課長がたいそう私を可愛がってくれていた。中心付近の最大風速が18メートル以上の熱帯性低気圧は「弱い熱帯低気圧」、中心付近の最大風速が22メートル以上になると『強い熱帯低気圧』、そして、25メートル以上の暴風に達すると、『台風』と呼ばれるのである。『中心付近の最大風速18メートルの台風』『暴風域を伴っていない台風』というアナウンスを聞いて、「フーン、最近は、何でも軽薄短小化し、台風の定義も、私が子供の頃、いや、大学生であった頃でも『強い熱帯低気圧』と呼ばれていたものまでもが、『台風』と呼ばれるようになったのか!!」と、変な関心をしたものです。

ところが、このニュースを聞いた時の驚きが吹き飛ぶようなニュースを、さして日数も経たないうちに聞くことになった。曰く、「台風○○号が発生しました。中心付近の最大風速は17メートルで、・・・」エッ??? 中心付近の最大風速17メートルの『台風』??? それは、私が子供の頃、大学生の頃は、『弱い熱帯低気圧』とさえ呼ばれなかった!

学生の基礎学力の低下が言われだして久しい。確かに、私が担当している科目においても、同じレベルで教え、同じレベルの期末試験を行っているにも拘わらず、ここ10年ほど、平均点の低下のみならず、高得点者の数ならびにそのレベルの低下は著しい。しかし、この事実の原因を、「学生の基礎学力の低下」に直結させることには、なんとなく違和感がある。学生たちは、『一所懸命勉強している』つもりなのである。ただ、10年前どころか、つい数年前の学生たちの目からも、『ぜんぜん勉強しなかった』と言うレベルなのである。学生たちの基礎学力低下が事実かどうかは分からないが、少なくとも私が言えるのは、学生たちの自己認識・自己判断が、年々、甘くなってきていると言うことである。そして、それは、かつては、『弱い熱帯低気圧』とさえ呼ばれなかったものまでもが『台風』と呼ばれる世の中の軽薄短小化の風潮に流されているからではないか、というのが、私の認識である。

髙島 均