Professors' Column
教員コラム

35.齋藤隆志(経済学科): 労働経済学で見る日本の大学生の就職活動

経済学科准教授 齋藤隆志

 私がこのコラムを執筆しているのは2013年12月。ちょうど3年生の就職活動が始まりました。2013年4月に本学に赴任したばかりなので、現在私のゼミに所属するゼミの学生が、私にとっては就職活動に挑戦する初めての学生でもあります。したがって、ドキドキしながら学生たちの就職活動を見守っています。

 実は、就職活動が始まる直前に、ゼミ生の個人面談を行いました。ゼミの活動に加えて、卒論や就職活動について話を聞きたかったからです。早くから就職を意識して、インターンシップに積極的に参加したり、そこで出会った先輩社員や就職活動をしている他大学の学生を交流する人もいましたが、志望する業種もほとんど決めていなかったり、業種をいくつか絞りつつもその中にどのような企業があって、どのような仕事内容なのかを調べていなかったり、とのんびり構えている人のほうが多いようと感じました。

 私の専攻は労働経済学であり、その中でも企業の人事制度に大きな関心を持って研究しています。そこでは、日本の人事制度、特に学生が新卒採用されるような企業のものは、いわゆる「メンバーシップ型」であることが多いといわれております。これは、仕事の中身(職種、仕事内容、勤務地、給与など)について細かい契約を結ばずに、会社の一員(メンバー)とするというものです。就「職」ではなく、就「社」と言われることもよくありますが、それはまさに仕事に就くのではなくて、会社のメンバーになることを指しているのです。メンバーシップ型は、日本以外の国ではあまり多くは見られないタイプの雇用契約です。日本以外の国でどのような人事制度が多いのかというと、仕事の中身(職種、仕事内容、勤務地、給与など)について細かい契約を結ぶ「ジョブ型」といわれるものです。

 日本の企業のメンバーとなった人たちには、よほどのことがなければ定年までの雇用維持が暗黙の約束となります。その代わり、企業を取り巻く状況の変化に対応して、仕事の中身が変わった時に、メンバーは柔軟に対応することが求められます。忙しければ残業をいとわず、企業のさまざまな仕事内容を覚えるため職種が変わってもそれを受け入れ、ある事業が斜陽事業となれば新しい事業に異動、転勤も断らないといった態度が求められます。

 日本の大学生の就職活動においては、大学で身に付けた専門知識よりも、「地頭」の良さやコミュニケーション能力、部活やサークルの経験が重視される傾向にあるということがよく指摘されています。特に、文系の学生に対してはその傾向が強いと考えられます。地頭を見るのは、仕事の中身が変わったときへの対応能力、学習能力を判断するため、部活やサークルでの経験は、残業や転勤に耐える身体・精神両面のタフさを見るため、そしてコミュニケーション能力は、まずは、長きにわたって会社のメンバーとして一緒に働きたいと思える人物なのかを判断するため、ということなのだと考えられます。専門知識は、その都度必要なことを企業で身につければよいということです。

 したがって、あまり大学で身に付けた専門知識をそのまま生かすような仕事ができるとは思わないほうがよいでしょう。目の前の仕事を一つ一つ丁寧にこなしてくことで、いずれ適性が明らかになって、自分のしたい仕事が与えられるようになるのです。それが待てずに、せっかく採用されてもすぐに離職する人がいるようですが、残念ながらそういった人たちは日本企業の人事制度がよくわかっていなかったのでしょう。

 もちろん、大学教員の一人としては専門知識を教えることが無駄だとは思っておりません。専門知識の学習を通じて、企業が必要とする上記の能力を鍛えればよいのです。さらに、学生時代は人生を通じて必要な、「ものの考え方」の核となるもの(数学、哲学、歴史学、そして経済学など)を一つだけでも身に付けるべき段階です。特に、ゼミでの学習はこれらの能力を鍛えるのに最高の場だと考えております。

 冒頭でゼミ生との個人面談のことを紹介し、のんびり構えている学生がいると述べましたが、ゼミでしっかり鍛えた学生についてはそんなに心配する必要もないと思っています。もちろん就職への意識も低く、ゼミ活動も低調な学生については要注意ですが…私のゼミにいるともいないとも言っていませんが…そういった学生を出さないようにするのも教員の仕事です。

(2013年12月16日執筆)