Faculty of Economics
経営学特講(明学卒業生たちのリーダーシップ)2025 講演報告No.4

2025年11月17日

【ゲスト講演者】
 株式会社東北エンタープライズ
 専務取締役 営業部長
 藁谷 嘉知 様 (1998年法学部法律学科卒)

【講義の概要】
 2025年11月11日、株式会社東北エンタープライズの藁谷さんから企業理念である「当社に関わる人々、及び企業の幸せを追求し、地域との共生と発展に貢献する」という使命についてご講義いただきました。同社は電力会社への派遣業務をはじめ、工事や技術サービス、ダストコントロール、設備保全、環境システム、セキュリティ、ロボット、工業輸入機器など幅広い事業を展開しています。
 特に、2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故について触れられ、1~3号機の損壊により核物質の除去作業が現在も続いているという現状が示されました。これまでに回収できた核物質は1gにも満たず、残りは約80トンとされ、50年かけても終わらない長期的な取り組みになることが説明されました。藁谷さんは、現場の線量が高く、人が近づくことが困難なため、ロボット技術の活用が不可欠であることを強調されました。
 四足歩行ロボット「Spot」は、リアルタイムに状況を判断し、障害物を自動で回避しながら移動できるロボットです。巡回点検や定期作業、危険地域での初動対応など、人間の代わりにロボットが活動できる場面が増えていることが示されました。Spotはボストン・ダイナミクス社が開発し、すでに世界で2000台以上販売されており、ユーザー間の情報共有を通して改善が続けられています。
 藁谷さんは、遠隔操作技術という点で、本学にいながら福島県いわき市の本社に設置されたロボットをリアルタイムで操作できることを実演してくださいました。講義ではライブ映像を用いてパソコンからの操作が紹介され、距離に関係なくロボットを動かせること、スケジューリングによる自動巡回、そしてライトの色によって安全状況を知らせる仕組みなどを説明してくださいました。
 事業を始めた背景としては、福島第一原発事故での被曝低減の必要性が大きかったことが語られました。当時は適したロボットが存在しなかったため、自社で解決策を探り続けた結果、現在のSpot事業につながったと藁谷さんはお話されました。
 また、これまでのお仕事の経験を通じて、藁谷さんは「ストーリーを大切にする」ようになったということです。ストーリーは人の共感を得る力を持ち、「誰の幸せを追求するのか」という問いが企業活動において重要であることが述べられました。関わる企業や働く人、地域を幸せにすることが事業の継続につながり、幸せが余裕を生み、新しい挑戦を可能にするという視点が示されました。

【講義の感想】
 今回の講義を通して、東北エンタープライズが単に技術を提供する企業ではなく、「人の安全」と「地域の幸せ」を軸に事業を行っていることが理解できました。原発事故のような危険な現場にロボットを投入することで、人が立ち入れない場所の作業を可能にし、安全を守る仕組みを作り出している点が特に印象的でした。また、技術の進化が社会課題の解決に直結していることを実感し、ロボット技術がより身近で現実的なものとして利用されていることに驚きました。
 さらに、「誰の幸せを追求するのか」という言葉は、企業理念としてだけでなく、実際の事業の中で体現されている姿勢に説得力がありました。今回の講義を通じて、技術開発の背景にある人や地域への思いの重要性を学ぶことができ、企業の在り方について考える機会となりました。