Faculty of Economics
公開ゼミ(田原慎介ゼミ)2026 報告No.3

2026年7月13日

【ゲスト講演者】
 株式会社ヤッホーブルーイング
 営業推進室
 清水 俊介 様、大中 愛実 様、野崎 正汰 様

【ゼミの概要】
 今回のゼミは、クラフトビールの製造・販売を手掛ける株式会社ヤッホーブルーイングにおいて営業推進としてご活躍されている清水氏、野崎氏、大中氏の三名をお招きし、事前に4つのグループに分かれて準備したヤッホーブルーイングの成長要因に対する分析の発表をした。発表後には、ヤッホーブルーイング社員の視点からフィードバックを頂くことができ、外部と内部の目線で成長要因について理解を深めることができた。
 最初のグループは、「ヤッホーブルーイングの成長要因〜ビールって推せるもの?〜」というテーマで発表した。このグループはヤッホーブルーイングの成長を、「顧客数の拡大ではなく、ファンとの距離を極限まで縮め、「沼の深」を深め続けるプロセス」と定義した。アイドルの推し活文化と比較しながら、ヤッホーブルーイングのファンイベント「超宴」やファン の通称である「よな友」の存在、SNSでの企業からのファンサービスなどを例に挙げ、ヤッホーブルーイングが「推せるインフラ」となっているのではないかと考察した。また、ブランドロイヤリティを示す「ぞっこん度」に注目し、熱狂的なファンが広告塔となる仕組みについて説明した。さらに、細かなペルソナ設定による「メロい」とも解釈できる感動体験の提供や、ニックネーム制度などの「ガッホー文化」が組織力向上につながっていることも指摘した。最後には、ファンが広告塔となる要素や推し活文化があるという事象から、新規顧客が参入しづらく、既存の顧客層が高齢化していっているのではないかという課題も挙げ、SNS時代を生きて推し活文化が浸透している我々大学生へアプローチをすることがこれらの課題解決になるのではないかという提案で最初のグループは発表を終えた。
 これに対し清水氏からは、新規ファン層が増えないと、時間の経過とともにファン層の年齢が高まっていく懸念があること はすでに課題として認識しているため、年代を問わず参加しやすいイベント設計を行っていることや、ブランドによっては、これまでより若い層向けへの リブランディングにも取り組んでいることが説明された。また、顔馴染みの顧客と新規顧客の間には優劣をつけず、いずれにも楽しんでもらえるようフラットな関係づくりを意識していることも明かされた。
 二つ目のグループは、「ヤッホーブルーイングのDX戦略」をテーマに発表した。地ビールブームが終わり、小売業者との取引が少なくなり始めて赤字が続いていた頃、黒字回復のために楽天市場におけるECサイト改善を試み、データ分析やコンテンツ活用による顧客理解と価値提供をしていたと説明した。それらを用いて個性的なメルマガやインパクトのあるイベント提案を実行することができ、それらに興味を惹かれた顧客がさらに顧客に宣伝するという口コミとブログの書き込み増加による話題性の成功を語った。その結果として、「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2007」を受賞し、黒字化も成功することができたのではないかという発表だった。
 清水氏からのフィードバックでは、倒産寸前だった時期には今でいうところのDX化に注力する余裕はなく、試行錯誤の中でのECや尖った企画づくりに取り組んでいたこと、データ分析や現在のような広範なコンテンツの拡充は黒字化以降の政策だったことが明かされた。
 また、ヤッホーブルーイングは単なるビールメーカーではなく、「ビールを中心としたエンターテインメント事業」を目指す企業であり、その視点から戦略を考えて行動した結果だということが重要であると説明された。さらに、一人ひとりのスタッフがリスクを取りながらも、自ら直接顧客へ価値を届ける「自ら考え行動する」文化もヤッホーブルーイングの強みであったと学んだ。
 三つ目のグループは「売るより好きになってもらう戦略」という視点からファンマーケティングについて分析した発表であった。このグループは企業の成長を「ファンを増やし、継続的な売上拡大を実現すること」と定義し、認知拡大から情緒的価値の提供へと戦略が変化したことを説明した。メルマガ配信や楽天市場での工夫、ファンイベントの開催などを通じて顧客同士のコミュニティ形成が進み、口コミによる宣伝効果や新規顧客獲得につながったことを示した。特に、イベント参加人数が40人から5,000人へ増加したという定量的成果や、ブランド認知向上とファン資産蓄積という定性的成果を整理していた点が印象的であった。
 発表後には、情緒的価値と機能的価値の関係について議論が行われた。野崎氏や清水氏からは、情緒的価値は機能的価値を満たした上で成立する付加価値であり、両者は相互に関係しているという説明があった。
 最後のグループは、「井手社長のアントレプレナーシップが組織に与えた影響」について発表した。倒産寸前の状況の中で、井手社長がチームビルディング研修や組織改革を進めたことに着目し、アントレプレナーシップと変革型リーダーシップの違いを整理した。このグループは変革型リーダーシップが人や組織へ働きかけるのに対して、アントレプレナーシップは組織文化そのものを変革する行動であると説明した。目標達成のために変革的な行動を続け、ニックネーム制度の導入や主体的に行動できる環境づくりは、その象徴的な例として紹介された。
 清水氏からは、当時の井手社長自身はアントレプレナーシップを意識していたわけではなく、会社存続のためにリスクを取らざるを得なかった側面もあるのではないかとの解釈共有 があった。ただ、「やると決めたらやり切る」という姿勢はまさにアントレプレナーシップ的振る舞いであり、変革型リーダーシップと組み合わせながら組織改革を進めていたのではないかということが説明された。

【ゼミの感想】
 今回のゼミを通して、企業の成長には単に優れた商品を販売するだけでなく、顧客との関係性や組織文化の構築が重要であることを学んだ。特に、ファンマーケティングによる顧客との距離の近さや、「売るより好きになってもらう」という考え方は、大手企業 には真似しにくいヤッホーブルーイング独自の強みであると感じた。また、イベントやSNSを活用してファン同士のつながりを生み出し、そのファンが自発的にブランド価値を広める仕組みは、現代のSNS社会においても非常に有効な戦略であると理解できた。さらに、井手社長のアントレプレナーシップや変革型リーダーシップに即して学んだことで、組織文化を変革するためには、リスクを恐れず目標に向かって行動し続ける姿勢が必要であることも学ぶことができた。顧客との関係づくりと組織内部の文化形成の両方が、ヤッホーブルーイングの持続的な成長を支える重要な要因であると今回のゼミを通して強く感じることができた。